バイアス調整シンドローム
ヴィンテージサウンド®への問い合わせでトップランキングに入るのが、「バイアス調整」に関するもので、代表的なものは次の通りです。
- 「ギターアンプの真空管を交換したいが、バイアス調整が必要ですか。」
- 「特性が揃ったマッチドの真空管を購入すれば、バイアス調整がいらないと言われたのですか。」
- 「バイアス調整をしないとアンプが壊れますか。」
- 「同じ規格・ブランドの真空管に交換すれば、バイアス調整は不要ですか。」
- 「バイアス調整は自分でできますか。」
- 「自分のアンプはバイアス調整不要と言われたのですが。」
- 「純正管を使えばバイアス調整が不要と楽器店に言われました。」
- etc.
私(ヴィンテージサウンド® 代表 佐々木 英明)は、これらの問題を「バイアス調整シンドローム」と呼んでおりますが、本コンテンツにて決着をつけたいと思います。
誤った情報の蔓延
お問い合わせ内容を見てみると、電子工学の知識がある方ならば、誤った情報が多数含まれていることに気づくはずです。
なぜ、バイアス調整に関する情報に誤りが多いのでしょうか。
主な原因は、つぎの3つです。
- 電子工学における「バイアス調整」の意味を知らない販売店(例えば、楽器店の文系店員)が噂レベルのあやふやな「バイアス調整」をお客様に説明してそれが広がったため。→販売店の知識不足
- メンテナンスも行っている販売店では、真空管交換に伴うバイアス調整も技術料として売り上げとなるため、ユーザに対して、「バイアス調整=専門家の聖域」ということで、バイアス調整に関する正確な情報を意図的に開示しないため。→販売店の聖域主義
- 本来、バイアス調整が必要な真空管アンプであるにもかかわらず、バイアス調整をせずに真空管を交換したら、たまたま、動作してしまったため、「真空管交換時のバイアス調整は不要だ」として、第三者に伝え、それが広まったため。→ユーザの知識不足
このように、販売店およびユーザの知識不足と、販売店の聖域主義で、噂が噂を呼ぶという負の連鎖で、バイアス調整に関して誤った情報が蔓延するにいたっているのです。
水道の蛇口とバイアス調整の以外な関係
ここで、第1級陸上無線技術士でもある私が電子工学の観点から、正確に「バイアス調整とはなんぞや」という説明をしたいと思います。もちろん、難解な数式等は登場させませんので、文系の方も安心してお読みください。
バイアス調整を一言で説明すると、無信号時に真空管に流れるプレート電流を所定値にするために、バイアス電圧を調整することです。
真空管には、バイアス電圧が常に加えられており、このバイアス電圧の大きさに応じたプレート電流が流れます。
ここまでは、良くある電気系解説書の記載で、もうギブアップしている方も多くいると思います。こういう記載をするから益々難解となってしまうのです。
ということで、ここからは、「誰でもわかるやさしいバイアス調整 超入門編」といきましょう。
ところで、「バイアス」っていったいなんでしょうか。人間にかかるストレスのようなものです。極論ですが、ストレスがまったく無いと、自由すぎてやがて自堕落的な生活となります。逆に、非常に強いストレスがかかると、極度の緊張状態により、精神的に追い詰められた生活となります。これらに対して、適度のストレスがあるほうが、生活にメリハリがつき、快適に生活することができます。
文学的に表現するならば、真空管にかかるストレスをバイアスと呼びます。ストレスが無くても、かかりすぎても真空管はうまく動いてくれません。 適度なストレスをかけてこそ、真空管は、心地よいサウンドを奏でてくれます。このことを覚えておいてください。
バイアス調整の説明は、水道の蛇口に例えると、非常にわかりやすくなります。すなわち、つぎのような対応関係となります。
真空管の場合 | 水道の蛇口の場合 |
バイアス電圧 | 蛇口の開度 |
プレート電流 | 蛇口からの水量 |
バイアス電圧は、蛇口の開度(開き具合)に相当し、プレート電流は、そのとき、蛇口から出る水の水量に相当します。
ここで、水道の蛇口からコップに水を注ぐ場面を想像してください。
蛇口を思いっきり開くと、勢い良く「ジャー」と水が放出されますが、コップの底面で反射された水が周囲に飛び散り水浸しになるも、コップにうまく水がたまりません。→バイアスが浅すぎる
逆に、蛇口をほんの僅かしか開かないと、「チョロチョロ」としかコップに流入せず、コップ一杯になるまで時間がかかりイライラします。→バイアスが深すぎる
日常では、我々はこのように両極端な水道の使い方はしません。蛇口の塩梅を経験的に知っているので、蛇口からの水が適量となるように、蛇口をひねり、コップに水を注ぎます。→バイアスが適正
もうおわかりですね。
「適量の水が流れるように蛇口の開度を調整すること」が「バイアス調整」なのです。
実は、バイアス調整の原理はこんなに簡単なのです。難しくもなんともありません。
今日はここまでとし、次回は、バイアス調整についてもっと突っ込んだお話をしたいと思います。
(次回に続く)
以上
2009.5.25
Good music !