バイアス調整とマッチド管の関係
固定バイアス方式(電圧可変型)においては、前述の説明より、マッチド管(ペア、クワッド等)、すなわち、特性が揃ったパワー管が、バイアス調整の大前提であることがおわかりいただけたと思います。つまり、バイアス調整時には、精度が高いマッチド管を用意する必要があります。
そのマッチド管を真空管アンプに実装した後に、バイアス調整を行わなければなりません。従って、固定バイアス方式(電圧可変型)では、マッチド管を用意すれば、バイアス調整不要という噂は、全くの誤りです。
これに対して、固定バイアス方式(電圧固定型)の場合には、バイアス調整ができませんので、マッチド管であって、かつ当該バイアス電圧に対応した特性のマッチド管を用意する必要があります。
なお、自己バイアス方式に限っては、バイアス調整が不要ですので、マッチド管を用意するだけで良いのです。
このように、マッチド管は、バイアス方式に応じて、三種類の意味合いがありますので、しっかりと、覚えておいてください。
バイアス調整と技術スキルの関係
真空管アンプを業としているプロショップにおいては、バイアス調整のやり方を見れば、そのエンジニアの技術スキルがわかってしまうほど、バイアス調整は、真空管回路の基本中の基本であるとともに、サウンドデザインの要でもあります。
まずは、「バイアス調整の実際」でご紹介した最低限の使用機材すら使わず、テスターだけでバイアス調整をするエンジニアは、論外です。悪い意味で使われる政治屋という言葉があるように、この姿勢は、まさにアンプ屋です。
正しいバイアス調整方法を知らないか、知っていても面倒なので簡易的な方法を採っているかのいずれかです。この場合、とりあえず、音が出る状態にすることはできますが、荒い仕事で、ベストサウンドには程遠いポジションです。
つぎは、「最低限の使用機材」を使ってバイアス調整をするが、アンプオーナーからのヒアリングを一切しないエンジニアです。技術的には完璧でも、自己満足なサウンドしか出ませんので、アンプオーナーを満足させることができない点で、これも、論外といわざるを得ません。
実は、音作りにとって、バイアス調整は絶好の機会なのです。つまり、バイアス調整によって、良くも悪くもサウンドも変化させることができますので、アンプオーナーから好みのサウンド傾向をヒアリングしつつ、バイアス調整にフィードバックさせるという姿勢が重要です。
最後に、技術スキルが最も高いエンジニアは、アンプオーナーに十分なヒアリングを実施してサウンドの好みを把握した上で、「最低限の使用機材」を使い倒し、理想的なサウンドに近づけるべく、バイアス調整を極める人だと思います。まさに、アンプ職人という言葉がぴったりです。アンプ職人には、バイアス調整に加えて、真空管に関する深い造詣も必要とされますが、中々いるものではありません。
ところで、ヴィンテージサウンド®でお客様に真空管をお薦めする際には、ヒアリングを十分にします。ヒアリング内容は、多岐に亘り、時には、1時間を越える場合も珍しくありません。
ギターアンプオーナーの場合には、アンプ機種、周辺機材(エフェクタ、ギター等)、音楽ジャンル、現状の真空管構成、現状サウンドの特徴、理想サウンドの傾向、アンプ使用場所(スタジオ、自宅、ライブ会場等)、使用頻度、使用年数等をヒアリングした上で、最もベストと思われる組み合わせの真空管をお薦めしております。
オーディオアンプオーナーの場合には、アンプ種別(メーカー品、自作品)、周辺機材(スピーカー、ソース再生期)、音楽ジャンル、現状の真空管構成、現状サウンドの特徴、理想サウンドの傾向、アンプ使用場所(リスニング専用ルーム、リビング等)、使用頻度、ソース媒体(CD、アナログ)、使用年数等をヒアリングします。
マイクアンプオーナーの場合には、アンプ機種、録音環境(スタジオ、屋外)、録音対象(楽器、ヴォーカル等)、音楽ジャンル、現状の真空管構成、現状のマイクのり、理想サウンドの傾向、使用年数等をヒアリングします。
ここまでヒアリングしなければ、逆に、真空管をお薦めすることができないのです。なぜならば、アンプの使用環境およびサウンドの好みが千差万別であるとともに、真空管のサウンド特性も千差万別だからです。
ここで、真空管のセレクトにも、黄金率(ゴールデンルール)というものがあります。
ヴィンテージサウンド®では、お客様からのヒアリング結果を黄金率(ゴールデンルール)に適用した上で、真空管をセレクトさせていただくことにより、上質なサウンドデザインをご提案させていただいております。
(次回に続く)
以上
2009.6.28
Good music !