プリ管12AX7の解体ショー(その1)
こんにちは、真空管専門店 ヴィンテージサウンド 代表の佐々木です。
今回は、お馴染みのプリ管12AX7を分解してみました。いつも見ている12AX7も、分解してみることにより、構造はもとより、動作までも手にとるようにわかるようになります。トランジスタ等の半導体では、こうはいきません。
それでは、12AX7の解体ショーを始めます。
「ガシャン」とガラスを割ったのが、つぎのFig.1です。
【Fig.1】左がECC83S/12AX7 JJで、右が12AX7 Mullard をガシャンと割った様子
剥き出しの電極を見ると、手作り品であることがよくわかります。こんなに小さい各パーツを組み立てる職人さんに敬意をはらいつつ、じっくりと観察すると、微妙にずれていたり、曲がっていたりと様々な発見があります。実は、真空管の信頼性は、この組み立て精度にかかっており、組み立てが雑な真空管(代表的なものは中国球)は、安価な代わりに、おのずと故障率が高くなります。
これに対して、組み立て精度が高い真空管は、見た目も美しく、故障率も低い代わりに、高価です。
ここで、12AX7の基本構造について、Fig.2を使って復習しましょう。
【Fig.2】12AX7 Mullardのプレート構造
Fig.2において、12AX7は、第1プレートと第2プレートという2つのプレートを有する双三極管です。第1プレートと第2プレートは、平行配置されており、それぞれが、独立した電圧増幅機能を備えております。つまり、12AX7は、双子の真空管が一つにパケージされた構成とされております。
例えば、オーディオアンプの場合には、第1プレートが左スピーカに、第2プレートが右スピーカに対応するという使い方があります。この場合、左右バランスをとるには、第1プレートと第2プレートの各ゲイン(増幅度)が揃っている必要がありますが、ほとんどの12AX7は揃っておりません。つまり、双子だが、性格が異なるということです。
ここで、各ゲインが、「第1プレート>第2プレート」というアンバランスの関係であると、各スピーカの出力レベルも、「左スピーカ>右スピーカ」となり、音像定位がセンターよりも左側に寄ってしまうという、アンバランス状態となります。音像定位のズレは、以外にもプリ管が原因であることが多いのです。
ギターアンプの場合には、12AX7の各ゲインが揃っているという前提で設計しますので、各ゲインが、「第1プレート>第2プレート」または「第1プレート<第2プレート」というアンバランスの関係ですと、設計通りのサウンドクオリティにはなりません。
さらに、ギターアンプの場合には、12AX7のゲインで歪み量をコントロールできるのですが、12AX7の各ゲインにバラツキがあると、演奏スタイルに応じた歪み量のコントロールが出来なくなり、運任せとなります。
ちなみに、ヴィンテージサウンドでは、第1プレートと第2プレートのゲインが揃ったものを「双極マッチ」、完全に揃ったものを「完全双極マッチ」として選別しております。
つぎに、Fig.2の電極部と各ピン(足)をニッパで切り離して、電極部をひっくりかえして、底面から見た画像がFig.3です。
【Fig.3】12AX7 Mullardの電極部の底面を見た様子
Fig.3では、第1カソード、第1ヒータ、第2カソードおよび第2ヒータを確認できます。第1カソードおよび第2ヒータは、第1プレート(Fig.2参照)内に配設されており、一方、第2カソードおよび第2ヒータは、第2プレート(Fig.2参照)内に配設されております。
ここで、12AX7の基本構成は、カソード、ヒータ、プレートおよびグリッドの4つです。カソードは加熱されると電子を放出する機能、ヒータはカソードを加熱する機能、プレートはカソードから放出された電子を受け止める機能、グリッドはカソードからプレートに移動する電子の移動量をコントロールする機能をそれぞれ備えております。
この説明だとわかりにくいので、バスケットに例えてみましょう。
バスケットにおいては、つぎの対応関係となります。
- バスケットボール→電子
- カソード→シューター
- プレート→ゴール
- グリッド→ディフェンス
つまり、シューター(カソード)がゴール(プレート)に向けてバスケットボール(電子)を放つと、ディフェンス(グリッド)がゴールを阻止しようとします。このディフェンスをかいくぐったバスケットボール(電子)だけが、ゴールに入ることができます。
ここで、ディフェンスが下手だったら、阻止力が働かず、どんどん得点が入ります。12AX7の場合、グリッドに印加されるバイアス電圧が浅く、電子に対する阻止力が低く、プレートに移動する電子が多くなる状態、つまり、プレート電流が多い状態です。
一方、バスケットのディフェンスが上手だったら、逆に、得点が入りにくくなります。12AX7の場合、グリッドに印加されるバイアスが深く、電子に対する阻止力が高く、プレートに移動する電子が少なくなる(プレート電流が小さい)状態です。
つぎに、Fig.3から各ヒータを引き抜いてみたのが、Fig.4です。
【Fig.4】12AX7 Mullard ヒータを分解したところ
Fig.4において、第1ヒータと第2ヒータは、それぞれV字状とされており、まるで糸くずのようです。これらのヒータは、ニクロム線のようなものですので、各端部にヒータ電圧が印加されることにより、熱とともにオレンジ光を発生させます。
次回は、さらに分解を進めます。
2010.6.6
Good music !
(c) 2010 VINTAGE SOUND