2011年10月20日木曜日

文系のための真空管入門

こんにちは、 真空管専門店 ヴィンテージサウンド 代表の佐々木です。
真空管等の電子工学の理解には、電気数学の知識が不可欠なのですが、真空管で音楽を楽しむぶんには小難しい理論などもちろん必要ありません。
電圧が電流がどうのこうのは、むしろ野暮というものです。
が、こう言ってしまっては身も蓋もありません。
折角、真空管に巡りあえたのですから、文系の方にも「真空管ってこうなってるんだあ~」というイメージだけでも持っていだけるよう本テーマを選びました。
まずは、恒例のBGMとそれを奏でる真空管、そして今回からは執筆場所と一緒に飲んでいるドリンクもご紹介します。

執筆場所

VINTAGE SOUND OFFICE

今日のドリンク

  • カテゴリ レギュラーコーヒー
  • 温度 HOT
  • 豆 スターバックス エスプレッソロースト
  • 点て方 紙フィルタードリップ
  • 特徴 カラメルのような甘いアロマと濃さが魅力で、最近のお気に入りです。

今日のBGM

  • アーティスト  BILLY JOEL(ビリー・ジョエル)
  • タイトル PIANO MAN THE VERY BEST OF BILLY JOEL
  • レーベル SONY MUSIC MHCP 553
ピアノ・マン:ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・ビリー・ジョエル

今日の真空管

これらの真空管でBGMを実際に聴きながら書いています。
  • パワー管  KT88 JJ マッチドクワッド4本 スロバキア共和国製
  • プリ管    12AU7 RCA クリアトップ/サイドゲッター マッチドクワッド4本
KT88 JJ クリアクワッド4本
KT88 JJは、スロバキア共和国製で、クリスタルガラス工芸が上手い国ならではの丁寧な作りと、TESLA譲りの信頼性の高さに定評がある真空管です。サウンド傾向もジャンルを問わない華やかさが特徴です。

外観スペック

  • 管全高 113mm
  • 管実効高 101mm(ハカマ下面~管頂面)
  • ガラス部径 52mm
  • ハカマ径 41mm
  • ハカマ色 シルバー 
  • ガラス部プリント 「JJ KT88」ロゴ
  • ハカマ部プリント 無し 
  • ゲッター形状 4連リング
  • ゲッター位置 頂部
  • プレート形状 3穴断面コ字 張り合わせスポット溶接(ウイング付)
  • 重量 100g/本  
  • 箱サイズ 56×56×132mm

試聴レポート

ビリージョエルの透き通った声にさらに磨きがかかり、高域の伸びがすばらしい。彼の演奏によるピアノのアタック感が心地良く、ピアノの高音がきらきらしている。
私は、2008年11月18日の東京ドーム公演で初めてビリージョエルのピアノと歌声を生で聴きました。
ビリージョエルコンサート

【コンサート会場で入手したTシャツ】
ビリージョエルのピアノ生演奏は、迫力と繊細さを兼ね備えており、とにも、かくにも、美しい旋律。 曲の前奏に「さくら」(もちろん、日本の名曲)を演奏していましたが、彼が奏でる「さくら」には、会場の皆が日本の美を感じているようで、夢のような時間でした。 もちろん、その美しい旋律に乗せた透明感のある声も絶品の一言でした。
あのときの感動を彷彿させるかのようなサウンドがKT88 JJから流れています。
それでは、気分が乗ってきましたので本題にいくとしましょう。

文系のための真空管入門 part1 プリ管編

文系のための真空管入門1

【3本のうちどれがプリ管でしょうか?】
真空管と一口でいっても、機能面で分類すると数十種類にも及びます。テレビのブラウン管も真空管の一種です。
そのうち、 ギター真空管アンプおよびオーディオ真空管アンプでは、三種の神器として「プリ管」、「パワー管」および「整流管」が使われます。
これら三種類だけを知っていれば、アンプについて十分に語ることができます。
実際のプリ管は、上の画像の10(左側)で、電圧増幅管とも呼ばれています。一般的には、パワー管および整流管に比して、プリ管のサイズが小さいので容易に判別することができます。 画像のプリ管10は、12AX7という代表的な規格で、ブランドがTUNG-SOL(タングソル)です。サイズは、親指ほどです。
ここで、プリ管の役目は、エレキギターやCDプレイヤでピックアップされた音楽信号の電圧を増幅することです。 音楽信号は、非常に微弱なレベルの信号であるため、スピーカを鳴らすだけのエネルギは全くありません。そこで活躍するのが、プリ管という訳です。
音楽信号における増幅の原理は、川の流れに例えるとわかりやすくなります。川は、源流→上流→下流→海という経路で流れ、下流にいくほど水量が増えます。音楽信号の増幅も上流から下流にいくに従って、レベル、パワーが段階的に増加してゆきます。 各要素の対応関係はつぎのようになります。 しっかりとイメージしてください。このイメージができればあとはカンタンです。
川の流れ→音楽信号の流れ 水量→音楽信号のレベル(大きさ) 源流→エレキギターやCDプレーヤ 上流→プリ管 下流→パワー管 海→スピーカ つぎに、音楽信号の増幅動作について説明します。 エレキギターやCDプレイヤ(源流)で微弱な音楽信号がピックアップされると、この音楽信号は、プリ管(上流)で所定のレベルにまで増幅される。
【ここでのポイント】 プリ管で増幅された音楽信号では、パワーが足りないためスピーカを鳴らすことはできない。
【ちょっとレベルアップ】

電気理論では、音楽信号は電圧と電流で表現されますが、プリ管は、音楽信号の電圧だけを増幅して、電流は増幅しないと大まかに考えてください。 スピーカを鳴らすためのパワー(電力)は、音楽信号の「電圧」と「電流」のかけ算で表されます。 プリ管では、電圧が高いのですが、電流が低すぎるため、パワーが足りないのです。スピーカを鳴らすためには、電流も増幅しなければなりませんが、プリ管には、その能力がありません。 プリ管は、静電気に似ています。静電気は、数キロボルトという超高電圧なのですが、電流がほとんど流れません。ですから、静電気でパチっとしても、電流が流れないため、感電死することはありません。実は、静電気は、圧倒的にパワー不足なのです。

話を戻し、プリ管で増幅された音楽信号は、パワー管(下流)で増幅される。パワー管では、電圧に加えて電流も増幅されるため、パワー管から出力される音楽信号は、十分なパワーを有している。
そして、この音楽信号がスピーカ(海)のボイスコイルに流れ、スピーカでは、音楽信号が空気振動に変換されることにより、音楽が再生される。
【ここでのポイント】 パワー管で増幅された音楽信号は、十分なパワーを備えているためスピーカを鳴らすことができる。
【ちょっとレベルアップ】

パワー管は、音楽信号の電圧および電流を増幅します。音楽信号のエネルギを表す電力Pは、電流をI、電圧をVとするとつぎの式で表されます。 P=V・I 電圧Vが大きくても、電流Iが小さいと、パワーが低いため、スピーカーを駆動するのに必要な電力が不足します。そこで登場するのが、パワー管です。パワー管は、プリ管に比して、電流が多く流れますので、熱に強い堅牢な構造とされており、サイズも大きくなります。

ところで、なぜ、プリ管と呼ばれているのでしょうか。ヒントは、「プリ」(Pre-)です。プリは、「~の前」という意味で用いられますが、この場合には、プリアンプ(Preamplifier)のことを指します。 プリアンプは、電気回路的にメインアンプ(パワーアンプともいう)の前に置かれるアンプで前置増幅器とも呼ばれています。この流れで、「プリアンプに使われる真空管」ということで、プリ管と呼称されています。
CDプレイヤをパワーアンプに直接つないでも、スピーカーからは、まともに音が出ません。パワーアンプに入力される音楽信号のレベルが低すぎるからです。 そこで、CDプレイヤとパワーアンプとの間にプリアンプを介挿すると、プリアンプで音楽信号が、パワーアンプで必要なレベルにまで増幅されるため、パワーアンプで電力増幅されスピーカーから大音量が出力されるのです。 高速道路において、パーキングから本線をつなぐ助走道路がプリアンプに該当します。パーキングから出ていきなり0→100km/hに加速するのが無理なことと同じです。

プリ管12AX7 TUNG SOLの構成

プリ管
プリ管の動作を大まかに把握したら、次は、構成です。
ここでは趣を変えて、その昔、私が仕事として毎日書いていた特許明細書風に説明してみましょう。特許業界では「構造モノ」の説明の仕方です。 実際の特許明細書では、もっと多くの符号を使って微に入り細に入り説明しなければなりませんが、今回は、上記画像において主な構成要素のみに符号を付けて、簡潔に説明します。
上記画像のプリ管10(Twin Triode)において、ピン11(Base Pin)は、9本の棒状導体であって、円周上に所定角度をもって等角配置されるように底部に垂設されている。これらのピン11は、プリ管10内部の各電極と電気的に接続されており、使用時に真空管ソケット(図示略)に挿通される。 第1プレート12a(First Plate)および第2プレート12b(Second Plate)は、プリ管10の内部であって、中心軸に沿って平行配設された電極であり、ピン11のうち所定の2本のピンと電気的に接続されている。

第1絶縁支持板13(First Insulating Spacer)および第2絶縁支持板14(Second Insulating Speacer)は、絶縁性を有するマイカからなる略円板状部材であり、各周縁部がプリ管10の内周面に接するように配設されている。これらの第1絶縁支持板12および第2絶縁支持板14は、プリ管10の軸方向に対して直角をなし、かつ第1プレート12aおよび第2プレート12を挟持するように対向配設されている。
ゲッター部材15(Getter Material)は、バリウム等の金属が円環状に形成されてなり、支持部材を介して第2絶縁支持板14の上方に平行をなすように設けられている。ゲッター16(Getter)は、ゲッター部材15への高周波加熱により頂部17の内周面に形成された金属皮膜であり、プリ管10内部で発生するガスを吸収する役目をしている。
プリ管10の構成の説明は以上ですが、文章のあちらこちらに表現のテクニックがちりばめられているのがお分かりでしょうか。一見すると簡単なようですが、特許業界では、文章だけから逆に図面(画像)を描けるような正確さをもって表現することが求められ、このような文章を書けるようになるまで少なくとも3年はかかります。
いつか機会を設けて、特許業界についても書いてみようと思います。 ここで、ぜひ覚えていただきたいプリ管10の特徴があります。上記の説明で何か気づいたことがありますか。
もうおわかりですね。 プリ管10は、第1プレート12a第2プレート12bという2つのプレートを有した構成とされております。プレートは、真空管の心臓部にあたる部分で、心臓部というくらいですから、本来、1つの真空管に1つのプレートが標準装備のはずです。 ところが、プリ管10には、2つものプレートがあります。2本の真空管を1本にしたような二個一で、画像の第1プレート12aと第2プレート12bとは、まるでお母さんのおなかの中の双子のようにも見えます。
このような双子構造のプリ管は、「双極管」(正確には双三極管:Twin Triode)と呼ばれております。 なお、双子といっても、第1プレート12aと第2プレート12bとは、電気的に独立して動作します。
【ここでのポイント】 プリ管には、双子の構造をしたプレートが2つある。つまり、真空管2本を1本にした二個一構造だ。
つぎにプリ管にとって最も重要な要素について説明いたします。これを知らないと、サウンドデザイン上の致命傷となります。 プリ管を電気的に測定すると、ゲイン(増幅度)、相互コンダクタンス等の様々な電気的特性を数値で知ることができ、この数値に基づいて、プリ管の良否を定量的に判定することができます。 ここでは、プリ管の電気的特性として最も重要なゲインに絞って説明します。
プリ管のゲインは、プレート毎に測定されます。 言い換えると、 プレート1つにつき、1つのゲインが測定されます。
従って、上述した画像のプリ管10を測定すると、第1プレート12aのゲイン(以下、第1ゲインと称する)と、第2プレート12bのゲイン(以下、第2ゲインと称する)という2つのゲインが得られます。 ここで注意すべきは、第1ゲインと第2ゲインは、同値ではなく、差がある場合がほとんどであるという点です。差の程度もプリ管毎にバラツキがあります。
バラツキの具体例は、後のテーマで詳述いたしますが、実測するとそのバラツキに驚きます。 例えば、プリ管の代表格12AX7のゲインは、「100」と信じられているようですが、これは、理想ゲインであって、現実には、80~115くらいの幅にばらついて分布しているのが普通です。
どの世界でも、理想と現実は大きくかけ離れているもので、真空管の世界も例外ではありません。
上述した画像のプリ管10の例に当てはめると、第1プレート12aの第1ゲインが90、第2プレート12bの第2ゲインが110という差が20なんてことも普通にあります。
第1プレート12aと第2プレート12bとは、一卵性双生児のように見た目は同じですが、性格(ゲイン)が違うのです。
もちろん、両ゲインの差が0や、1か2というものもありますが、このように差が少ないものは、「双極マッチ」または「双極マッチド」と呼ばれ、全体に占める割合は非常に少なくプリ管の中のサラブレッドと言うことができます。
一卵性双生児の例ですと、見た目も性格(ゲイン)も同じというケースに該当します。
  • 【ここでのポイント1】 プリ管は外見が同じでも、電気的特性(ゲイン)の個体差が大きい。
  • 【ここでのポイント2】 プリ管からは、2つのゲインが測定できる。 2つのゲインにバラツキがあるのがほとんどである。
  • 【ここでのポイント3】 プリ管は、まるで一卵性双生児のようで、二種類のタイプが存在する。 1つ目は、一卵性双生児で外見一緒だが、性格(ゲイン)が別のタイプ。 2つ目は、一卵性双生児で外見も性格(ゲイン)も一緒のタイプ。
なぜ、バラツキがでるのかというと、理由は明快で、第1プレート12aと第2プレート12bとの機械的構造を寸分の狂いもなく製造することが難しいからです。手作り品のため、見た目が同じでも、第1プレート12aと第2プレート12bとは、寸法が微妙に違うのです。
第1プレート12aと第2プレート12bとの機械的誤差が、電気的特性(ゲイン)の誤差として表れるのです。 実に判りやすい! プリ管におけるゲインのバラツキは、サウンドデザインに大きな悪影響を与えます。詳細については、日を改めてご説明しますが、ちょっとだけ、ヒント。
あなたの真空管アンプに2本のプリ管(12AX7)が実装されており、左右スピーカに対応しているとします。2本のうち、左スピーカに対応する12AX7のゲインが低く、右スピーカに対応する12AX7のゲインが高かったらどのように聞こえますか。もうおわかりでしょう。 残念ながらゲインは、見た目では絶対にわかりません。専用の測定器で測定するしか知る術はありません。

現行品 プリ管

現行プリ管

画像左から 12AT7EH 12AU7 EH 12AX7 EH 6SL7GT TUNG-SOL 6SN7GT TUNG-SOL
つぎに、現行品の中から5種類のプリ管をご紹介しましょう。 これらの5種類のプリ管は、すべて双極管構造(いわゆる一卵性双生児)となっており、1本につき2つのゲインが測定されます。 左から1本目~3本目は、見た目も同じですが、12AX7,12AU7,12AX7という具合に規格(理想ゲイン)が異なりますので、互換性はありません。 左から4本目および5本目は、他よりもサイズが大きいのですが、これらもプリ管です。

米国系ヴィンテージ管 プリ管12AX7

ヴィンテージ プリ管1

画像の左から 12AX7A RCA 12AX7 GE 12AX7 Kinsman(GE製) 12AX7 SYLVANIA
1920~1980年代にかけて製造された真空管は、ヴィンテージ管と称され、特に、真空管全盛期(1940~1960年代)のヴィンテージ管は、サウンドの良さと希少性から人気、価格が共に高く、年々高騰しています。 真空管全体からにじみ出る風格、雰囲気は、現行品にはない魅力的なもので、人々を引きつけてやみません。
当時一流の職人魂が時を経て、見る者に訴えかけてくるようです。 ヴィンテージ管のピンと、現行品のピンとを見比べてください。ヴィンテージ管のピンが、チタンマフラーのように七色になっているのがわかりますか。 上記画像の4本は、米国系ブランドのヴィンテージ管です。

欧州系ヴィンテージ管 プリ管12AX7

ヴィンテージ プリ管2

画像の左から ECC83/12AX7 Telefunken(テレフンケン 独国) ECC83/12AX7 Mullard(ムラード 英国) M8136 Mullard(ムラード 英国) ECC83/12AX7 Amperex(アンペレックス 和蘭国) 通称 Burgle Boy(笛吹童子)
上記画像の4本は、欧州系ブランドのヴィンテージ管です。米国系ブランドとは、作りが異なるため、サウンドも別傾向となります。

米国系ヴィンテージ管 プリ管6SN7GT,6SL7GT

ヴィンテージ プリ管3

画像の左から 6SN7GT RCA 初期ブラックプレート 6SL7GT GE グレープレート 上記画像の2本は、米国系ブランドのヴィンテージ管です。

文系のための真空管入門 part2 パワー管編

文系のための真空管入門2

【3本のうちどれがパワー管でしょうか?】
もうおわかりでしょう。 パワー管は、上の画像の20(中央)で、電力増幅管とも呼ばれています。一般的には、プリ管や整流管よりもサイズが大きく、真空管アンプで最も目立つ位置(いわゆるセンター)に実装されていますのでカンタンに見つけることができます。 画像のパワー管20は、パワー管の中でもEL34と人気を二分するKT88という規格で、ブランドがGOLD LION(ゴールドライオン)です。
サイズは、握り拳ほどです。 復習になりますが、パワー管の役目は、前述したように、プリ管で増幅された音楽信号の電圧および電流を増幅し、スピーカーを駆動することでしたね。

パワー管KT88 GOLD LIONの構成

パワー管

つぎは、パワー管の構成です。 パワー管もプリ管も基本的な構成はほとんど同じですが、決定的に違う点があります。 それは、プレートの数です。 プリ管は、1本あたりプレートが2つでしたが、一般的には、パワー管は、プレートが1つです。
【ここでのポイント】 プリ管は、プレートが2つもあるが、 パワー管は、プレートが1つしかない
パワー管についても、特許明細書風に構成を説明してみましょう。
上記画像のパワー管20(Power Tube)において、ピン21(Base Pin)は、7本の棒状導体であって、円周上に所定角度をもって等角配置されるようにハカマ22(Base)の底部に垂設されている。これらのピン21は、パワー管20内部の各電極と電気的に接続されており、使用時に真空管ソケット(図示略)に挿通される。
プレート23(Plate)は、パワー管20の内部であって、中心軸に沿って配設された電極であり、ピン21のうち所定の1本のピンと電気的に接続されている。 第1絶縁支持板24(First Insulating Spacer)および第2絶縁支持板25(Second Insulating Speacer)は、絶縁性を有するマイカからなる略円板状部材であり、各周縁部がパワー管20の内周面に接するように配設されている。
これらの第1絶縁支持板24および第2絶縁支持板25は、パワー管20の軸方向に対して直角をなし、かつプレート23を挟持するように対向配設されている。 ゲッター26(Getter)は、ゲッター部材(図示略)への高周波加熱によりパワー管20の頂部の内周面に形成された金属皮膜であり、パワー管20内部で発生するガスを吸収する役目をしている。
上記ゲッター部材(図示略)は、バリウム等の金属が円環状に形成されてなり、支持部材を介して第2絶縁支持板25の上方に平行をなすように設けられている。
ここで、パワー管を電気的に測定すると、プレート電流、相互コンダクタンス等の様々な電気的特性を数値で知ることができ、この数値に基づいて、前述したプリ管と同様に、パワー管の良否を定量的に判定することができます。 プリ管では、ゲインが重要であるのに対して、パワー管では、プレート電流が重要となります。
【ここでのポイント】 パワー管では、電気的特性としてプレート電流が重要だ。
また、パワー管の場合には、プレートが1つしかありませんので、パワー管1本につきプレート電流は1つしか得られません。従って、2つのゲインを測定しなければならないプリ管よりも、パワー管のほうが、測定に手間も時間もかかりません。
【ここでのポイント】 パワー管では、1本につき1つのプレート電流が測定される。
ここで気になるのが、パワー管におけるプレート電流の個体差です。 もちろん、プリ管のゲインと同様に、パワー管にも個体差が存在します。理由は、機械的構造の精度が、同一規格であってもパワー管毎に違うからです。 例えば、上記画像のパワー管20が100本あるとしましょう。もちろん、これらの100本は、外見が同じですので、見た目で区別がつきません。
これら100本に対して、同一の測定条件で各プレート電流を測定すると、100個のプレート電流の各数値が得られます。パワー管1本につき、1つのプレート電流でしたね。 100個のプレート電流を検証すると、ゲインと同様にバラツキが必ず出ます。 例えば、つぎのような測定結果が得られます。
  • 1本目  プレート電流→20.5mA(電流の単位でミリアンペアと読む)
  • 2本目  プレート電流→36.5mA
  • 3本目  プレート電流→40.4mA
  • ・ ・ ・
  • 98本目 プレート電流→25.5mA
  • 99本目 プレート電流→19.9mA
  • 100本目 プレート電流→28.2mA
上記測定結果において、1本目と3本目は、外見は同じであっても、プレート電流に関して、実に2倍もの差があります。このような測定結果は、別に珍しいことではなく、普通に起こる現象です。プレート電流の大小によっても、サウンドが変化しますので、これを無視してサウンドデザインを語ることはできません。
いわゆるマッチドペアというのは、100本の中から、電気的特性(上記ではプレート電流)の誤差が小さいもの2本を選別したものを指します。 ここで注意すべきは、ペアといっても、どのような条件で測定し、どのような条件で選別したかにより、ペアの精度は千差万別となります。
この選別精度が甘いと、誤差が大きい「なんちゃってペア」となり、堂々と販売されているケースも見受けられます。なお、真空管の測定や精度、選別方法については、別テーマを設けて詳述したいと思います。
【ここでのポイント】 パワー管にも、個体差があり、電気的特性(プレート電流等)にバラツキがある。
パワー管におけるプレート電流のバラツキを説明するには、自動車に例えるとわかりやすくなります。 すなわち、 外見が全く同じで区別が付かないクラウンが100台あるとします。但し、エンジンの馬力は、バラバラとします。例えば、1台目は200馬力、2台目は360馬力、3台目は400馬力、・・・・、98台目は250馬力、99台目は190馬力、100台目は280馬力とします。
なお、100台の各重量は同一であるものします。 パワー管と自動車の対応関係はつぎの通りです。
パワー管   →自動車 プレート    →エンジン馬力 測定条件   →アクセル量 プレート電流 →走行速度 そして、100台のクラウンに1台づつ順次試乗し、同一のアクセル量(測定条件)で走行させた場合、エンジン馬力(プレート)の相違により、走行速度(プレート電流)にバラツキが発生します。 以上がパワー管においてプレート電流がバラツく場合の考え方です。
このプレート電流も、プリ管のゲインと同様に、見た目では絶対にわかりません。専用の測定器で測定するしか知る術はありません。
【ここでのポイント】 真空管は見た目だけでで判断してはいけません。中身こそ重要なのです。

現行品 パワー管

現行パワー管

画像左から 300B JJ 2A3 JJ KT88 JJ 6550C Svetlana Sロゴ 6L6GC Svetlana Sロゴ KT77 GOLD LION 6V6GT TUNG-SOL EL84 GOLDLION
つぎに、現行品の中から8種類のパワー管をご紹介しましょう。
左から1本目および2本目は、直熱管と呼ばれるパワー管で、サイズも大きく、存在感があります。
左から3本目~8本目は、傍熱管と呼ばれるパワー管です。 パワー管と一口にいっても、サイズがまちまちです。
ちなみに、左から8本目のパワー管は、管高さ以外、前述したプリ管12AX7とほぼ同径で、馴れないと間違うので注意してください。

米国系ヴィンテージ管 パワー管

ヴィンテージ パワー管

画像左から KT88 TUNG-SOL 3穴プレート KT88 RCA 無穴プレート 145 Arcturus ペア 青ナス刻印 
パワー管にもヴィンテージ管があります。
右の青ナス(ペア)は、ただただ 美しいの一言です。 上記画像の4本は、米国系ブランドのヴィンテージ管です。

文系のための真空管入門 part3 整流管編

文系のための真空管入門3

【3本のうちどれが整流管でしょうか?】
整流管は、上の画像の30(右側)です。この整流管30は、プリ管10と同様に一卵性双生児の構造とされており、1台のアンプに1本が標準的な実装です。 整流管30は、プリ管10と似た構造をしていますが、機能が全く違います。
まさに、別モノです。 整流管30には、グリッドと呼ばれる電極が無いため、プリ管やパワー管のように音楽信号を増幅する機能がありません。整流管30は、交流電源から直流電源を作るための整流作用を有しています。
正確には、整流管30の整流作用は、全波整流作用です。
全波というくらいですから、「半波」という声が聞こえましたが、その通り、あります。その話をすると混乱するので、全波整流ということで続けます。
整流管30は、携帯電話機のACアダプターの役目をしていると考えてもらうとわかりやすいと思います。 プリ管10やパワー管20が音楽信号を扱う音楽屋だとすれば、整流管30は、電源屋です。 ここで、整流管の使用には歴史的な背景があります。
真空管には、直流電源(電池等の電源)が不可欠で、1920年代の真空管ラジオの電源は、大きくて重い電池でした。ところが、真空管の消費電力が大きいため電池を頻繁に交換しなければならず、コストも手間もかかるため、一部の金持ちにしか普及しませんでした。 そこで、注目されたのが、当時、各家庭に普及しつつあった交流電源(今のコンセントAC電源です)です。
この交流電源を真空管アンプに直接使うことはできませんが、整流管を使えば、交流電源から直流電源を作ることができます。これで、重くて高価な電池とは永久におさらばできます。 そして、真空管ラジオに整流管を搭載したモデルが次々と開発され、交流電源さえあれば、一般家庭でもラジオ放送を楽しめるということで、爆発的に普及しました。このように、整流管は、ラジオ放送の普及に重要な役目を果たしたのでした。
なお、真空管アンプによっては、整流管30に代えて、シリコンダイオード等の半導体整流器(ソリッドタイプともいう)が使われている場合がありますので、整流管が見つからなくてもご心配に及びません。

整流管 5U4GB EHの構成

整流管
最後は、整流管30の構成です。 整流管もプリ管も基本的な構成はほとんど同じですが、決定的に違う点があります。 それは、整流管には、増幅作用はなく、整流作用がある点です。
【ここでのポイント】 整流管は、プリ管と同様にプレートが2つある。 つまり、一卵性双生児の構成だ。
ものはついでですから、整流管についても、特許明細書風に構成を説明してみましょう。
上記画像の整流管30(Rectifier Tube)において、ピン31(Base Pin)は、5本の棒状導体であって、円周上に所定角度をもって等角配置されるようにハカマ32(Base)の底部に垂設されている。これらのピン31は、整流管30内部の各電極と電気的に接続されており、使用時に真空管ソケット(図示略)に挿通される。
第1プレート33a(First Plate)および第2プレート33b(Second Plate)は、整流管30の内部であって、中心軸に沿って平行配設された電極であり、ピン31のうち所定の2本のピンと電気的に接続されている。 第1絶縁支持板34(First Insulating Spacer)および第2絶縁支持板35(Second Insulating Speacer)は、絶縁性を有するマイカからなる略円板状部材であり、各周縁部が整流管30の内周面に接するように配設されている。
これらの第1絶縁支持板34および第2絶縁支持板35は、整流管30の軸方向に対して直角をなし、かつ第1プレート33aおよび第2プレート33bを挟持するように対向配設されている。 ゲッター部材36(Getter Material)は、バリウム等の金属が円環状に形成されてなり、支持部材を介して第2絶縁支持板35の上方に平行をなすように設けられている。ゲッター37(Getter)は、ゲッター部材36への高周波加熱により整流管30の頂部の内周面に形成された金属皮膜であり、整流管30内部で発生するガスを吸収する役目をしている。
ここまで来れば、つぎに何を説明するかは容易に予測がつくはずです。
整流管も一卵性双生児だとすれば、「あれ」しかありません。 整流管を電気的に測定すると、電気的特性としてエミッション効率(以下、エミッションと略称する)を数値で知ることができ、このエミッションに基づいて、整流管の良否を定量的に判定することができます。 エミッションとは、カンタンに言えば、整流管30内の電子(マイナスの極性をもった電気のツブ)の放出量です。
真空管アンプの電源をオンにすると、整流管30のヒータがオレンジ色に点灯します。 「真空管の灯を見ていると心が癒されるよな」というあのオレンジ光です。 見ている分には緩やかなときが流れていますが、整流管30内部では大変なことが起こっています。オレンジ色のヒータは、高温になるため、熱電子放出作用により、オレンジ部分からは大量の電子が放出されます。
これらの電子は、マイナスの極性をもっているため、プラスが大好きで、そのプラスの極性をもった例のプレートに向かって一斉に空間を移動します。 この電子流の放出量がエミッションと呼ばれ、この数値が一定値以下になると、その真空管の寿命と判定されます。
【ここでのポイント】 整流管では、電気的特性としてエミッションが測定される。
また、整流管のエミッションは、プリ管と同様に、プレート毎に測定されます。 そうです。プレート1つにつき、1つのエミッションが測定されます。
従って、上述した画像の整流管30を測定すると、第1プレート33aのエミッション(以下、第1エミッションと称する)と、第2プレートのエミッション(以下、第2エミッションと称する)という2つのエミッションが得られます。 ここで注意すべきは、第1エミッションと第2エミッションとは、同値ではなく、差がある場合がほとんどであるという点です。差の程度も整流管毎にバラツキがあります。
例えば、整流管のエミッションの最低値は、「800」ですが、実際には、800~2500くらいの幅でばらついて分布しているのが普通です。 上述した画像の整流管30の例に当てはめると、第1プレート33aの第1エミッションが1500、第2プレート33bの第2エミッションが2000という差が500なんてことも普通にあります。
第1プレート33aと第2プレート33bとは、一卵性双生児のように見た目は同じですが、性格(エミッション)が違うのです。
もちろん、両エミッションの差が数%以内というものもありますが、このように差が少ないものは、「双極マッチ」または「双極マッチド」と呼ばれ、全体に占める割合は非常に少なくプリ管の中のサラブレッドと言うことができます。
一卵性双生児の例ですと、見た目も性格(エミッション)も同じというケースに該当します。
  • 【ここでのポイント1】 整流管は外見が同じでも、電気的特性(エミッション)の個体差が大きい。
  • 【ここでのポイント2】 整流管からは、2つのエミッションが測定できる。 2つのエミッションにバラツキがあるのがほとんどである。
  • 【ここでのポイント3】 整流管も、プリ管と同様に一卵性双生児のようで、二種類のタイプが存在する。 1つ目は、一卵性双生児で外見一緒だが、性格(エミッション)が別のタイプ。 2つ目は、一卵性双生児で外見も性格(エミッション)も一緒のタイプ。
エミッションがバラツく理由は、明快で、第1プレート33aと第2プレート33bとの機械的構造を寸分の狂いもなく製造することが難しいからです。手作り品のため、見た目は一でも、第1プレート33aと第2プレート33bとは、寸法が微妙に違うのです。
第1プレート33aと第2プレート33bとの機械的誤差が、電気的特性(エミッション)の誤差として表れてきます。 この辺の説明は、ゲインをエミッションと読み替えて、プリ管のパクリです。 整流管におけるエミッションのバラツキは、直流電源の質に影響を与え、ひいてはサウンドを左右します。できるだけ、バラツキが少ない整流管を使用することがサウンド改善の基本となります。
整流管のエミッションも、見た目では絶対にわかりません。 もしも、オレンジ色の点灯状態でわかる方がいたらそれは都市伝説です。 専用の測定器で測定するしか知る術はありません。

現行品 整流管

現行整流管

画像左から 5U4G Svetlana Sロゴ 5U4GB EH GZ34 JJ 5AR4 Sovtek 5AR4 TRONAL 5Y3GT Sovtek
つぎに、現行品の中から6種類のプリ管をご紹介しましょう。
これらの6本は、外見が違いますが、全て一卵性双生児の構成をなしており、全波整流作用を有しています。整流管を交換することによっても、サウンドを変化させることができます。 左から1本目は、まるでパワー管のような外見ですが、これもれっきとした整流管です。

ヴィンテージ 整流管

ヴィンテージ 整流管

画像左から 5U4GB RAYTHEON 初期ブラックプレート 5U4G RCA 初期ブラックプレート 5Y3GT KEN-RAD 初期ブラックプレート GZ34 Mullard ノコギリプレート ER280 RAYTHEON エンボス ボックスプレート ナス 180 Arcturus 青ナス
整流管にもヴィンテージ管があります。これらのヴィンテージ管も全て一卵性双生児の構成とされており、現行品と機能的になんら変わりはありませんが、ヴィンテージ管ならではのサウンドは格別です。 特に右の2本は、いつまでながめていても飽きません。

おまけ ソリッドタイプ 整流器(もはや整流管とは呼びません)

ソリッド整流器
画像は、上述した整流管(5AR4,5U4G,5Y3G等)と差し替えができる整流器で、ガラスを使った真空管ではありませんので、間違っても整流管とは呼ぶことはできません。 この整流器は、前述の画像でピン31とハカマ32からなるような構成でハカマ32の内部にシリコンダイオード(ダイオードブリッジ)を内蔵してなるソリッドタイプです。
整流管から整流器に交換した場合には、各真空管に供給される直流電圧が高めになるため、アンプ出力が高くなり、クリアなサウンドとなります。 逆に、この整流器から整流管に交換した場合には、各真空管に供給される直流電圧が低めになるため、やわらかなサウンドとなります。ギター真空管アンプでは、歪みやすくなります。
以上
2009.1.29
Good music !