ある日突然届いた商標権侵害警告のメール
こんにちは、真空管専門店 ヴィンテージサウンド® 代表の佐々木です。
最終回は、弊社で実際にあった話で、商標実務の傾向と対策としてお読みいただければ幸いです。
思い起こせば、2007年のある朝、パソコンを立ち上げ、メールをチェックしていると、見覚えの無いアドレスから商標権侵害うんぬんの内容のメールを発見。発信者は、テクソルという会社の鈴木社長という方。もちろん、面識はありません。
私は、特許業界に10年ほどおりましたので、「特許権侵害」、「訴訟」、「裁判」、「警告」等というキーワードがいつも飛び交っている環境にいた関係で、メール中の「商標権侵害」というキーワードを見ても、特段に驚くことはありませんでしたが、特許業界で体に染みついた感触が蘇ってくるのがわかりました。
「まずは、事実確認」
「つぎに、判例確認」
「そして、対抗策はどうするか?」
などと頭で考えながら、メール本文を読むと、信じられない驚愕の内容でした。
要旨は、「御社で販売しているSvetlana Cロゴは、テクソルが商標登録しているので、即刻、輸入および販売を中止されたい。」という内容でした。
つまり、商標法第36条に規定されている「差止請求権」の行使ということになります。この差止請求権は、商標法における水戸黄門の印籠に相当し、企業間においては、戦闘態勢つまり訴訟を意味します。従って、差止請求権は、企業、弁理士および弁護士が十分な調査と検討の上、100%勝てる見込みがある場合に限って行使されるもので、慎重の上に慎重を重ねられるべきものです。
ちなみに、商標法第36条(差止請求権)には、
第1項「商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。」
第2項「商標権者又は専用使用権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他侵害の予防に必要な行為を請求することができる。」
と規定されております。
同条の通りであれば、ヴィンテージサウンドは、企業財産としての真空管(Svetlana Cロゴ)の全てを破棄しなければなりません。この当時のSvetlana Cロゴの在庫は、金額にして500万円くらいだったと思います。500万円がドブに?
このように、差止請求権は、他人の財産権をも奪うことができる強力な権利であるため、軽はずみには行使できないことがおわかりいただけたと思います。
こういうときは、慌ててはいけません。まずは、事実確認です。
この時点では、後述する理由により、私は、言いがかりであるという確信がありましたので、非常に冷静に対応することができました。
商標権侵害(特許権侵害、実用新案権侵害、意匠権侵害も同様)の警告が来たら、まず、することは、その権利が有効であるか否かを確認することです。まれに、存在しない商標権を楯に、ハッタリをかまして、賠償金を得るという詐欺行為もあるからです。
商標権の存在は、特許庁のホームページで当該商標登録公報を入手し、商標権者、登録商標、期限を確認します。登録商標が存在しないとか、期限切れ等の場合には、商標権自体が存在しませんから、警告は心涼しく無視するか、無効である旨を応答してください。
同様に、弊社でも公報を入手したところ、確かに、商標権者がテクソルで、登録商標もSvetlana Cロゴでした。
ここで、危機一髪となるところですが、残念ながらそうはなりません。
特許業界では常識なのですが、今回のケースは、いわゆる並行輸入問題で、最高裁の判例があり、商標権の侵害にあたらないという判決が出ております。
つまり、今回のケースでは、テクソルは、Svetlana Cロゴの日本代理店で、一方、弊社は、真正品(本物)のSvetlana Cロゴを、テクソル以外の海外正規代理店から輸入しているため、並行輸入して販売していることになります。
従って、最高裁の判例に該当し、商標権の侵害にはあたりません。
例えば、正規代理店のルイヴィトンジャパンやロレックスジャパンが、並行輸入のヴィトンバックやロレックス時計を販売している販売店に対して、輸入販売差し止め請求を行う場合と同じであり、真正品を販売している限りありえません。
この段階で、「誤報」であることを確信いたしましたが、最後のツメとして、特許時代の弁理士殿に経過を伝え、「絶対に大丈夫」というお墨付きをいただくとともに、「万が一訴訟でもめたら代理人になってやる」という心強いお言葉もいただきました。この弁理士殿からは、最高裁判決のポイントも教えていただき、理論武装ができあがりました。昔の仕事仲間は、本当にありがたいものです。
その判例は、「フレッドペリー事件」と呼ばれており、ポイントをご紹介します。
最高裁判所 平成15年2月27日判決、フレッドペリー事件
(平成14(受)第1100号)
「真正商品の並行輸入に該当するための要件は、以下の通りです。
1.当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであること
2 当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより,当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであること
3 我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから,当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価されること
そして、テクソル 鈴木社長へ電話
メールのやりとりでは、誤解が生じるため、直接、私からテクソル 鈴木社長へ電話をかけさせてもらいました。社長同士の初対話です。このときのやりとりは、鮮明に覚えております。
「ヴィンテージサウンドの佐々木と申しますが、鈴木社長はいらっしゃいますか」
「はい、私です。」
「鈴木社長。今回の商標権侵害の件は、戦争という認識でよろしいでしょうか?」
「・・・・」
私はさらに続けて、「つまり、商標権侵害訴訟ということです。」
鈴木社長はあきかに驚いた様子でしたが。
私が、「商標権侵害の根拠を教えてください。」と尋ねると、
「商標登録されているからです。」とのお答え。
「担当弁理士に相談されましたか?誰のご判断ですか?」との問いに、
「相談していません。私の判断です。」とのお応え。
ここで、全ての線がつながりました。
以後、私は、並行輸入問題や最高裁判決について、ご説明し、差し止め請求権の誤用であること、弊社には一切瑕疵は無いこと、今後も輸入販売をおこなうことの三点を確認させていただきました。
一方、鈴木社長は、そこまで反応しなくてもという困惑した趣旨のことをおっしゃっていたような気がします。
最後には、テクソルの真空管の販売をしてほしいというのがメールの趣旨であったということをおっしゃっておりましたが、一連の件で、毅然と抗議するとともに、きっぱりとお断り申し上げました。
ここでは、詳細には書きませんが、話がまとまらなかった場合には、当該商標権を取り消すという対抗手段もあります。
以上が事の顛末です。
今回の件は、商標権を乱用した好例で、いわゆる正規代理店が非系列販売店に圧力をかける手法としては、比較的ポピュラーな手法であるということが言えます。
今のところ、残念ながらビジネスではテクソルさんとお付き合いするチャンスがありませんが、いつか鈴木社長とお目にかかる機会がありましたら、真空管Svetlana Cロゴを肴にゆっくりとお酒でも飲みたいものです。
2009.11.8
Good music !
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