2011年10月21日金曜日

超かんたん バイアス調整入門(その8)




固定バイアス方式(電圧可変型)のタイプ

バイアス方式が固定バイアス方式(電圧可変型)と判明し、バイアス調整用の可変抵抗(ボリューム)の実装位置がわかると、早速、バイアス調整をしてみたくなりますが、ちょっと待ってください。

「バイアス調整用の可変抵抗は何個ありましたか?」

「えっ! 何個もあるの?」という声が聞こえてきそうですが、固定バイアス方式には代表的なものとして、3つのタイプがあります。

  1. パワー管n本に対して、可変抵抗が1個のタイプ1
  2. パワー管n本に対して、可変抵抗が(n/2)個のタイプ2
  3. パワー管n本に対して、可変抵抗がn個のタイプ3

どのタイプにするかは、メンテナンス性、精度およびコストを考慮して、アンプ設計者が決定します。各タイプの特徴は以下の通りです。

タイプ1

パワー管n本に対して、共通のバイアス電圧を供給するため、可変抵抗が1個だけの構成です。可変抵抗が1個のため、バイアス調整が楽になり、メンテナンス性が向上するとともに、コスト削減を図ることができます。但し、精度は、n本のパワー管のマッチング度合いに依存します。従って、n本のパワー管のバラツキが大きいと、精度が悪くなります。このことから、タイプ1に使用するパワー管は、限りなく特性が良く揃ったマッチド管である必要があります。

タイプ2

パワー管n本に対して、(n/2)個の可変抵抗が設けられるタイプで、(n/2)本のパワー管に対して、1個の可変抵抗が設けられています。具体的には、4本のパワー管(KT88等)を使用している真空管アンプの場合、可変抵抗は2個で、2本の真空管に対して、1個の可変抵抗が設けられています。

この場合、ペア(2本)単位で個別にバイアス調整できるため、調整分解能がタイプ1に比して、2倍となりますので、理論上は、精度が2倍高くなります。従って、ペア間で特性が揃っていなくても、バイアス調整により、「見かけ上」特性を揃えることができます。ここでのキーワードは、「見かけ上」です。

ここに、あるバイアス条件においてプレート電流30mAでそろえたパワー管2本(以下、ペア1と称する)と、同バイアス条件においてプレート電流40mAで揃えたパワー管2本(以下、ペア2と称する)があるとします。ペア1とペア2とは、同一バイアス条件でプレート電流差が10mAもかけ離れているため、当然マッチしておらず、後述する動特性が揃っていません。

これらのアンマッチなペア1およびペア2を当該真空管アンプに実装した場合には、当然、バイアス調整をして、同一のプレート電流に揃える必要があります。例えば、50mAに揃える場合には、ペア1に対応する可変抵抗を回して、ペア1のプレート電流を50mAに調整します。同様に、ペア2に対応する可変抵抗を回して、ペア2のプレート電流も50mAに調整します。

これで、めでたく、50mAに揃って、バイアス調整が完了しました。ステレオの場合、ペア1は右スピーカ、ペア2は、左スピーカに対応します。

ここで、問題です。

この状態で音出しすると、左右スピーカーの音響特性も揃っているでしょうか。

答えは、残念ながら音響特性は揃っていません。

ヒントは、前述した「見かけ上」です。

バイアス調整により揃えられたプレーと電流50mAというのは、静特性といって、音楽信号が入力されないとき、すなわち、無信号時におけるパワー管の特性です。

音出し時には、静特性に対して、動特性が重要となります。動特性は、変動する音楽信号を増幅するときの特性を指し、ペア1とペア2とは異なります。

つまり、ペア1およびペア2で静特性を揃えても、それは見かけ上であって、実際に音楽信号を増幅する際の動特性が異なれば、当然音響特性も揃うはずがありません。

静特性と動特性との関係は、エンジン馬力が異なる2種類の自動車を走行させたときの性能差に例えるとわかりやすいです。

パワー管のペア1を、150馬力の日産マーチとします。

一方、パワー管のペア2を、400馬力のポルシェ911カレラとします。

バイアス調整により、ペア1およびペア2のプレート電流を50mAを設定するということは、高速道路で2台並んで、日産マーチおよびポルシェ911カレラを共に時速100kmになるように、アクセル量を設定することです。日産マーチおよびポルシェ911カレラは、並列走行しています。この状態が静特性で、見かけ上、同じです。

しかしながら、時速を変化させてみると、すなわち、加速または減速をさせてみると、両車両の走行特性には、大きな差が生じます。

日産マーチは、同じ分だけアクセルを踏み込んでも、ポルシェ911カレラの加速度に遠く及びませんし、同じ分だけブレーキを踏み込んでも、かのドイツ車の世界一のブレーキ特性に太刀打ちなどできません。このような、車両の振る舞いがパワー管の動特性なのです。

よく、アンマッチな2ペアのパワー管であっても、バイアス調整で合わせられるから大丈夫だという見解がありますが、誤りで、見かけ上の特性を合わせられるだけであって、実際の動特性までは、合わせることはできません。

従って、タイプ2であっても、特性が揃った4本のパワー管を使用することが、上質なサウンドを手に入れる近道です。ペア1およびペア2という安易な妥協が、サウンドに悪影響を与えることをどうぞ肝に銘じてください。

タイプ3

最後は、n本のパワー管に対して、n個の可変抵抗が設けられているタイプです。すなわち、各パワー管に対応して、個別に1個の可変抵抗が設けられており、メンテナンス性およびコストで、他のタイプより劣るという欠点がありますが、この欠点を補うに余る長所が、タイプ3にはあります。それは、高い精度です。

静特性を揃えたn本のパワー管であっても、プレート電流の誤差が必ず存在します。タイプ3では、バイアス調整時に各可変抵抗を回すことにより、これらの微妙な誤差を個別に調整できるため、n本のパワー管のプレート電流をきれいに揃えることができます。タイプ1およびタイプ2に比して、非常に高い精度を実現することができます。

なお、タイプ3であっても、動特性の影響を少なくするため、できるだけ特性が揃ったパワー管の使用が重要であることに変わりはありません。

このように、固定バイアス方式のタイプによって、可変抵抗の数が異なるため、必ず、確認するようにしてください。

(次回に続く)

以上

2009.6.27                                          

Good music !